Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「ひどい?」
義父は絢子に怪訝な視線を投げた。
「絢子さんや。あんたに私を咎める資格があるのかね?
たかが愛人の一人くらいで騒いで取り乱して
自分の身だけでなくお腹の子どもまで犠牲にしたあんたに」
絢子は絶句した。
「言ったはずだ。私たちはいざとなったら伸吾を追い出してでも
あんたと子どもを守ると。それなのに自棄を起こして酒に溺れて
身体を衰弱させて。それが子どもを宿している母親のすることかね?」
返す言葉がなかった。
義父の言う通りだと絢子は思った。
「転落は不運な事故だった。でも不運ばかりではないと
私は思っているよ。絢子さんが自棄を起こさなければ
こんなことにはならなかったかもしれない。
本当に・・・ こんなことにならなければ
他の女が産んだ子どもの認知など考えもしなかった」
絢子は唇を噛んだまま眼を伏せ、義父の言葉を黙って聞いていた。
「引き取った子どもを育てるのが嫌なら、無理強いはせん。
高城の家長である私の決定に従えないというのなら、それも結構。
出て行きなさい。跡取りの産めない嫁など居ても居なくても同じだ」
やっぱりそうか、という思いと
何て冷酷な、という思いが綯交ぜになって
絢子の胸の内を覆った。そのときだった。
「勝手なことを言わないでください!絢子は俺の妻です」
父親に盾突くことなどなかったあの伸吾が声を上げた。
絢子は驚いて伸吾を見つめた。
「何が『俺の妻』だ? 笑わせるな。余所に女を囲っていたお前に
とやかくいう権利があるとでも?」
「・・・・・」
果敢な反撃もあえなく一蹴されてしまった。
絢子から見ても義父のいう事に分がある。
「お前達が何と言おうが、これは決定事項だ」
そう言い放ち席を立った義父と入れ替わるように部屋に入ってきたのは
絢子の両親だった。
「詳しい話はここへ来るまでに秘書さんから聞いたよ。
今の 高城さんの話も 悪いが外で聞かせてもらった。
とにかく・・・ お前が生きててよかった」
安堵と哀しみの入り混じった表情で両親は私の手をそっと握った。
「ごめんね・・・ 心配かけて」
いいのよ、と母は涙しながら絢子の頭をそっと撫でた。
その掌の温もりを感じた途端に、絢子の瞳からそれまで堪えていた涙が
堰を切ったかのように一気に溢れ出した。
「あのな、絢子。これから先はお前のしたいようにすればいい。
私たちはいつでもお前の味方だから」
全てを理解して飲み込んだ父の大きな愛情と精一杯の励ましだった。
義父は絢子に怪訝な視線を投げた。
「絢子さんや。あんたに私を咎める資格があるのかね?
たかが愛人の一人くらいで騒いで取り乱して
自分の身だけでなくお腹の子どもまで犠牲にしたあんたに」
絢子は絶句した。
「言ったはずだ。私たちはいざとなったら伸吾を追い出してでも
あんたと子どもを守ると。それなのに自棄を起こして酒に溺れて
身体を衰弱させて。それが子どもを宿している母親のすることかね?」
返す言葉がなかった。
義父の言う通りだと絢子は思った。
「転落は不運な事故だった。でも不運ばかりではないと
私は思っているよ。絢子さんが自棄を起こさなければ
こんなことにはならなかったかもしれない。
本当に・・・ こんなことにならなければ
他の女が産んだ子どもの認知など考えもしなかった」
絢子は唇を噛んだまま眼を伏せ、義父の言葉を黙って聞いていた。
「引き取った子どもを育てるのが嫌なら、無理強いはせん。
高城の家長である私の決定に従えないというのなら、それも結構。
出て行きなさい。跡取りの産めない嫁など居ても居なくても同じだ」
やっぱりそうか、という思いと
何て冷酷な、という思いが綯交ぜになって
絢子の胸の内を覆った。そのときだった。
「勝手なことを言わないでください!絢子は俺の妻です」
父親に盾突くことなどなかったあの伸吾が声を上げた。
絢子は驚いて伸吾を見つめた。
「何が『俺の妻』だ? 笑わせるな。余所に女を囲っていたお前に
とやかくいう権利があるとでも?」
「・・・・・」
果敢な反撃もあえなく一蹴されてしまった。
絢子から見ても義父のいう事に分がある。
「お前達が何と言おうが、これは決定事項だ」
そう言い放ち席を立った義父と入れ替わるように部屋に入ってきたのは
絢子の両親だった。
「詳しい話はここへ来るまでに秘書さんから聞いたよ。
今の 高城さんの話も 悪いが外で聞かせてもらった。
とにかく・・・ お前が生きててよかった」
安堵と哀しみの入り混じった表情で両親は私の手をそっと握った。
「ごめんね・・・ 心配かけて」
いいのよ、と母は涙しながら絢子の頭をそっと撫でた。
その掌の温もりを感じた途端に、絢子の瞳からそれまで堪えていた涙が
堰を切ったかのように一気に溢れ出した。
「あのな、絢子。これから先はお前のしたいようにすればいい。
私たちはいつでもお前の味方だから」
全てを理解して飲み込んだ父の大きな愛情と精一杯の励ましだった。