Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「うそ・・・」
「放っておけばいい。どうせ宅配か何かだろう」
息を詰めて動きを止めた二人を一時の静寂が包んだ。
「でも」
その静寂を解いたのはピンポンと鳴る軽やかな音だった。
「やっぱり出ないと・・放してくれる?」
「ここで止められるのか?」
止まっていた澤田が動き出して
それまでより強く激しく絢子を突き上げた。
充分に高まっていた絢子の一時戻ってきた理性はすぐに崩され
また甘やかな官能の世界へと引きずり込まれていく。
「・・ぁ・・・やめないで」
二人の荒い息遣いの合間にインターフォンが何度か鳴った。
落ち着かなくも刺激的な状況が尚一層二人を高めたその時だった。
今度はその昂ぶりを一気に醒ますようなドアを叩く音と声が聞こえた。
「こんにちはー。 絢子さーん」
ドアと壁を隔てているのでくぐもってはいるけれど
聞き覚えのあるその声は紛れも無く大和の声だった。
「・・・大和くん?!」
「みたいだな」
「どうするの?」
「どうするって・・・居留守しかないだろう」
「いいの?」
躊躇していると、今度は別の声が聴こえた。
「ちょっとアーヤ!居るんでしょ!早く開けなさいよぅ!」
「え?・・・キャサリン?!」
絢子ははっとした。
キャサリンは合鍵を持っている。
このままだとカギを開けて入ってくるかもしれない。
そう澤田に告げると 澤田は ふーう、と肩まで落として
盛大に息を吐いて絢子から身体を離し、彼女の背中に項垂れて
もたれかかった。
「出た方がいいだろう・・な」
「そうね」
「俺は・・・申し訳ないが今人前に出られる状況じゃないんだ。
頼んでいいか?」
それはお互い様だと絢子は思ったけれど、体の構造上
自分の方がぱっと見は何事も無く見えるだけに
この場は引き受けるしかないと絢子は小さなため息を落として頷いた。
「わかったわ」
絢子の身体を反転させた澤田は、両手を絢子の頬にそえて
触れるだけのキスをして額を絢子のそれに当てた。
「本当はこんな色っぽい顔をした絢子さんを
先輩に見せたく無いんだけどな・・」
「大丈夫。気合入れるから」
すまない、と苦笑いした澤田は「胸が透ける」といって
着ていたトレーナーを脱いで絢子に被せると
前かがみになりながら自室へ向かった。