Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「ごめんなさい。お待たせしました」
「ホントよ~ 玄関まで来るのにどんだけかかってんのよ。
そんなに広いお屋敷だったかしらねえ、この家は」
「お風呂に入りかけてたの!だから・・・」
「ふーん。昼真っからお風呂入って何するつもりだったのよ?」
「まあまあ、風呂なんて何時入ってもいいでしょう?」
悪戯な笑みを浮かべて絢子に絡むキャサリンに
声をかけたのは大和だった。
「お休みでお寛ぎのところをお邪魔してるのはこちらなんですよ?
あなたは大人しく庭のお手入れをしていてくださいね~。
そのために来たのでしょう?」
「も~~わかっているわよう!」
せっかく面白くなりかけたのにぃ、とぶつぶつ言いながら
キャサリンは玄関先から庭へと回り
新しい花の苗のケースと道具の入ったカバンを運び
農作業用のツバの広い帽子を被ると作業を始めた。
それを見届けてから絢子は大和に声をかけた。
「珍しいわね?貴方が連絡なしに突然来るなんて」
キャサリンはいつものことだけど、と絢子は苦く笑って
大和を部屋の中へと誘った。
「は? 澤田くんにはメールで連絡してありますよ?
今日は彼に用があったので。聞いていませんか?」
「ええ・・・」
「しまったなぁ。彼には直接電話をかけるべきでしたね」
澤田は普段から「急ぐ用なら電話をかけてくるだろう」と
あまりマメにメールをチェックする方ではなかった。
逆に多忙で、連絡をするにもされるにもなかなか捕まらない大和は
メールを頻繁に利用していた。
そんな二人の違いが今日のこの事態を招くことになった。
「あぁ先輩。今、携帯を見ました。すみませんでした」
ジーンズにシャツを羽織った澤田が二階から降りてきて
絢子の隣に並んだのを見て
大和は意味ありげな笑顔を浮かべた。
「あー・・・もしかして本当にお邪魔・・・だったかな?」
「そんなことは」 「全然」
絢子の声と澤田の声が重なった。
「そうですか?」
「そうよ。変な気、使わないで」
「でも、それキスマークでしょ?」
「え、やだ!?どこ!?」
思わず首筋を押さえ絢子は訴えるように澤田を見た。
見られた澤田は「絢子さん!」と慌てて声を上げた。