Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「いやー!なにコレ駿ちゃんが着るの?マジで?」

「マジです」

「うきゃー!!やだもぅ めっちゃギャップ萌え~~」


傍らで足をバタバタさせて爆笑するキャサリンなど
全く気にも留めずに大和は言葉を続けた。


「通常や体育指導はジャージで結構ですが
行事やその他のお手伝いの時にはこれを着けてくださいね~」



澤田がこのエプロンを着けて子供達に囲まれている図は想像し難いと
内心で苦笑いした絢子だった。


しかし実際に保父ライフが始まってみたら
子供達の中にもすんなり溶け込んだようで
可愛らしい小さな手紙や、折り紙で作ったセミや手裏剣などを
持って帰ってくるようになった。
三木や糸居の話によると、学生時代の澤田の厳しい部長ぶりは
他校にまでとどろくほどで
ことあるごとに部員他たちにグラウンドを何十周と走らせた話は
有名だったそうだ。それを聞いていた絢子は少し意外だった。
それを澤田に話すと彼は「幼児相手にそれはできない」と苦く笑って
絢子の肩に腕を回した。


「結構人気あるんだ。澤田先生は」

「新任が珍しいだけだろう」

「貴方って愛想はないけど、優しいからでしょうね。
子どもって本能的にわかるのよ?本当に優しい人かどうかっていうの」

「そうか?・・・優しい人だと言われたことはないけどな」

「ほら、コレ見て?
『大きくて やさしい しゅんせんせいが だいすきです。
およめさんになりたいです。 あおい』 って書いてあるわよ?」

「あおい?・・・ああ、あの子か。物好きだな」



絢子から渡された小さな手紙を見る澤田の瞳に優しい色が浮かんだ。



「じゃあ、私も物好きなんだ。駿先生が ダ・イ・ス・キ だから」

「それだけ?」


澤田は絢子の肩を柔らかく抱き寄せ、こめかみにちゅっと口づけた。


「んー・・・じゃあ 愛してる」

「それだけ?」

「それだけって・・・も~これ以上 どうしろと?」


よーし、言葉で足りないのなら、と絢子は澤田の膝に跨って
両手で頬を挟むと唇を重ねた。上下の唇を食んでは吸い
舌先を艶かしく動かした。けれど澤田は無反応にされるがままだった。
いつもなら、それに応えて主導を奪い、思うままに絢子を貪るのは
澤田のほうだ。
彼の様子に違和感を感じた絢子は唇を離して
問うように視線を合わせた。


「・・・駿?」

「『お嫁さんになりたい』とは思ってくれないのか」


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