Enchante ~あなたに逢えてよかった~
7 決意
それから数日が経ったの休日の午後。
気持ちを集中させるために寝室にノートパソコンを持ち込んで
投稿するための小説を書いていた絢子が
一息入れる為に階下へ行くと
新聞を握り締めた澤田が、ただならぬ雰囲気と緊張を漂わせ
TV画面を食い入るように見つめているのが目に入った。
その張り詰めたオーラに臆して声も掛けられず
かといって澤田の様子が気になって
自室へ戻ることもできなかった絢子は
リビングを伺うように立ち尽くしていた。
そんな絢子の気配を感じたのだろうか。澤田がふと絢子の方を見た。
「どうかした?」
絢子が声をかけると澤田はTVを消して
強張った微笑みを浮かべて立ち上がった。
「いや、なんでもない。・・・終わったのか?」
「まだ。ちょっと一休み。珈琲でも淹れようと思って」
「そうか」
「うん。あなたも飲む?」
「いや、いい。・・・ちょっと出てくる」
「ん。わかった」
何となく様子がおかしい澤田の硬い背中を見送った後で
リビングのテーブルに置かれたシワの寄った新聞を広げた絢子は
ある見出しに目を留めた。
「河島東吾!」
それは一人の日本人選手がアメリカで行われたテニスの大会で優勝をした事を報じる記事だった。
テニス史上日本人選手の優勝は初めてで、大きく取り上げられていた。
その日本人選手の名は河島東吾。
ジュニア時代には世界戦で何度も優勝し
一昨年、プロデビューした若手筆頭の選手だ。
トーゴの愛称で親しまれている。
テニスにそれほど詳しいわけでない絢子でも
その名前は澤田の名前と共に聞いたことがあった。
稀代の名選手でもありコーチとしても有名な河島英嗣を父に持ち
テニス界のプリンスと称されるサラブレッドだ。
10代でのプロ入りは確実と評されていたのに
20歳になる年までアマチュアに留まり
海外で指導を受け、実力の底上げをしたと聞く。
満を持してのプロ入りと同時にスポンサーが何社もつき
彼が出演している清涼飲料や健康食品等のCMは
とてもスタイリッシュで、キレのあるクールなトーゴのダンスも好評だ。
商品の売れ行きと共に彼自身の人気も上昇中で
今や知名度だけなら澤田よりも高いかもしれない。
その河島東吾が澤田の中学高校の後輩だったのを
絢子はこの記事で初めて知った。
そうか。それで・・・
絢子は澤田のただならぬ様子に納得がいった。
『これで澤田選手を抜いて現時点で日本人最高のランキングですが
ご感想は?』
『これで満足なんてしていない。
日本人最高?どーでもいいよ。そんなの。
土俵は世界だ。日本じゃない。
俺はまだまだ上に行くよ。てっぺん取るまでね』
この最後に記されていたトーゴのコメントに
澤田は触発されたに違いなかった。
さっき食い入るようにTV画面を見つめていたのは
その関連のニュースだったのだろう。
絢子は新聞を伸ばして畳んで置いた。
何とは言えない不透明な胸騒ぎが絢子の胸中を濁していった。
気持ちを集中させるために寝室にノートパソコンを持ち込んで
投稿するための小説を書いていた絢子が
一息入れる為に階下へ行くと
新聞を握り締めた澤田が、ただならぬ雰囲気と緊張を漂わせ
TV画面を食い入るように見つめているのが目に入った。
その張り詰めたオーラに臆して声も掛けられず
かといって澤田の様子が気になって
自室へ戻ることもできなかった絢子は
リビングを伺うように立ち尽くしていた。
そんな絢子の気配を感じたのだろうか。澤田がふと絢子の方を見た。
「どうかした?」
絢子が声をかけると澤田はTVを消して
強張った微笑みを浮かべて立ち上がった。
「いや、なんでもない。・・・終わったのか?」
「まだ。ちょっと一休み。珈琲でも淹れようと思って」
「そうか」
「うん。あなたも飲む?」
「いや、いい。・・・ちょっと出てくる」
「ん。わかった」
何となく様子がおかしい澤田の硬い背中を見送った後で
リビングのテーブルに置かれたシワの寄った新聞を広げた絢子は
ある見出しに目を留めた。
「河島東吾!」
それは一人の日本人選手がアメリカで行われたテニスの大会で優勝をした事を報じる記事だった。
テニス史上日本人選手の優勝は初めてで、大きく取り上げられていた。
その日本人選手の名は河島東吾。
ジュニア時代には世界戦で何度も優勝し
一昨年、プロデビューした若手筆頭の選手だ。
トーゴの愛称で親しまれている。
テニスにそれほど詳しいわけでない絢子でも
その名前は澤田の名前と共に聞いたことがあった。
稀代の名選手でもありコーチとしても有名な河島英嗣を父に持ち
テニス界のプリンスと称されるサラブレッドだ。
10代でのプロ入りは確実と評されていたのに
20歳になる年までアマチュアに留まり
海外で指導を受け、実力の底上げをしたと聞く。
満を持してのプロ入りと同時にスポンサーが何社もつき
彼が出演している清涼飲料や健康食品等のCMは
とてもスタイリッシュで、キレのあるクールなトーゴのダンスも好評だ。
商品の売れ行きと共に彼自身の人気も上昇中で
今や知名度だけなら澤田よりも高いかもしれない。
その河島東吾が澤田の中学高校の後輩だったのを
絢子はこの記事で初めて知った。
そうか。それで・・・
絢子は澤田のただならぬ様子に納得がいった。
『これで澤田選手を抜いて現時点で日本人最高のランキングですが
ご感想は?』
『これで満足なんてしていない。
日本人最高?どーでもいいよ。そんなの。
土俵は世界だ。日本じゃない。
俺はまだまだ上に行くよ。てっぺん取るまでね』
この最後に記されていたトーゴのコメントに
澤田は触発されたに違いなかった。
さっき食い入るようにTV画面を見つめていたのは
その関連のニュースだったのだろう。
絢子は新聞を伸ばして畳んで置いた。
何とは言えない不透明な胸騒ぎが絢子の胸中を濁していった。