Enchante ~あなたに逢えてよかった~
それから絢子が澤田と顔を合わせたのは五日後の夕方の事だった。
その間、澤田からの連絡は一切なかった。
職場へは体調不調ということで連絡があったらしい。
澤田が出て行った日の昼に大和からの電話で絢子はそれを知った。
何処でどうしているのだろうか・・・
こうなるように仕向けた張本人なのに絢子は気になって仕方なかった。
子どもではないのだから大丈夫だろうとは思っていても
着の身着のままで、他に知り合いも居ない土地で
財布も持たずに飛び出して何日も戻ってこないのはやはり心配だった。
あと二日。一週間経っても何の連絡もなければ
東京の三木くんや糸井君に連絡をとってみようと思いながら
絢子が勤めから戻り玄関ドアを開けると、正面の階段に澤田が座っていた。
傍らにはまとめた荷物が置いてある。
「戻ったのね」
今まで何処でどうしていたのかは、絢子はあえて訊ねなかった。
聞いたところで澤田は何も言わないだろうと思っていたし
彼のやつれた面差しと厳しい表情を見ただけで
胸が締め付けられるように痛んでこれ以上何も言葉が出てこなかった。
「今から東京へ戻ります」
澤田は冷たい声で短く言うと、残りの荷物は実家へ送って欲しいと
絢子に頼み、これまでの部屋代だと封筒を差し出した。
「お世話になりました」
「いえ・・・気をつけて」
絢子が封筒を受け取ると、硬い表情のまま軽く頭を下げた澤田は
それ以上の言葉を交わすことも、振り返ることも無く
絢子の前から去っていった。