89×127
写真を撮った時のことはだいたい覚えている。
この三枚も例外ではない。
一枚目は、夏休み中に撮ったもの。
課外の合間、階段で談笑する二人の生徒を捉えた写真。
階段の踊り場にある窓からの光が絶妙に二人を包んでいて、思わず撮ったものだ。
二枚目は、あの遅刻してきた日に雨上りの街並を撮ったもの。
葉から落ちるしずくが、顔を出した太陽に照らされてとてもきれいだった。
そして三枚目は、…あの日の夕暮れの写真だ。
「あーっとね、この二枚はいいよ。でも、これはダメ」
夕暮れの写真を手元に引き寄せる。
ごめんね、これはダメなんだ。
これは、中川くんにあげなきゃいけない写真だから、見世物じゃない。
「その写真きれいなのに、ダメなの?」
「そうなのよ。これは特別だからねーん」
「そっかー残念。でも聞いといてよかった。じゃ、この二枚は入れるねー」
「うん、よろしく」
渚が確認することを提案してくれてよかった。
この写真だけは中川くんにちゃんと届けたいと思ってるんだ。
あげるって、約束したからね。
そして、そのチャンスは一週間後に控えた松下たつのりの結婚披露宴だと考えてる。
もう終わりにするんだ。
この写真を中川くんに渡して、それで最後。
想うことを止めて、あたしは中川くんを忘れるのさ。