89×127
「あたし、絶対に幸せになるからね!」
優介の分も。
そう耳元でささやいた美雪さん。
たしかに、新郎を目の前にして大声で言える内容ではない。
「幸せにならなかったら、怒りますからね!」
「うん。あのスライド、すごく心がこもってて温かい気持ちになった。ひかりちゃんが、カメラを続けてくれてることが、すごく嬉しいよ」
体を離した美雪さんは、少し目を潤ませていたけどきれいに笑ってくれた。
それだけで、あのスライド、作ってよかったなって思えます。
「あ、そうだ…」
お兄さんの弟である中川くんとは話したんだろうか?
でもそこはあたしが世話を焼くところでもないか…
「どうしたの?」
「いや、なんでもないです。このあとは片付けですか?」
「そうだねー着替えて、二次会に行かなきゃ。みんなは…」
「未成年を居酒屋に入れるわけにはいかないだろ」
「それもそっか。じゃあ、みんなとはここでお別れだね。今日は来てくれて本当にありがとう!ひかりちゃん、また今度お話してくれる?」
「はい!もちろんです!あ、じゃあ今度、松下たつのりに連絡先渡しておきますね!」
「うん、よろしくね!」
笑顔で手を振る美雪さんに手を振り返しながら渚と一緒に建物から外にでる。
「あ…」
夏から秋へと変化していく季節の中、暮れゆく空は橙と闇色の入り混じるグラデーション。
まるで今日手渡した、あの日の夕暮のようだ。
あの日の空は忘れて、新たに始めろということなのか、あの日の夕暮を、その時の気持ちを忘れるなということなのか、
わからないが、あたしはただ夢中でシャッターをきった。