89×127

しばらくすると、写真をあたしの前において、顔を上げた美雪さん。



「あーいっぱい泣いちゃったなー」


まだその瞳はかすかにうるんでいるけど、もう涙をこぼすことはなかった。


「私ね、あの頃、優介と付き合ってたの」

「それは、はい。なんとなく、そうなんだろうなーって思ってました」


「もうね、あの後大変だったのよあたし。精神的にガッタガタのボロボロでさ」

「それで、松下たつのりが…」

「そうそう、たつがね、支えてくれたの。本当にあのときたつに助けてもらわなかったら、私はダメになってたと思うな」

「…美雪さんは今、幸せですか?」



あの日階段で松下たつのりに聞いたのと同じ質問を繰り返す。



「幸せ。すごく幸せだよ」


「お兄さんのことは…」

「優介のことも、悲しいことだけど今のあたしを形作る一つの成分だよ。なかったことにするつもりはないし、そんなことしたら優介に怒られちゃう」


どこか遠くを見つめる美雪さんの目には、お兄さんの姿が映っているのかな。


「今こうやってひかりちゃんと再会してお話しできるのは、優介のおかげであり、たつのおかげでもある。私は、この巡り合いに感謝してるし、後悔なんて絶対しないよ。だって、今がすごく幸せだから」



そうしてニッコリ笑った美雪さんに、安心した。

松下たつのり、美雪さんは幸せだってさ。
だから心配することなんてなかったんだよ。



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