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「…弟?!って、えーっと、なんだっけ、きょ、」
「恭介くんです」
「そう、恭介くん!ちっちゃくて可愛かった恭くん!」
そうか、付き合っていたころに関わりがあったのか。
美雪さんの中の中川くんはきっと、あの日病室にいた幼いままの姿なんだろう。
「なんで、ひかりちゃんが知ってるの?病院であったとか?」
「いえ、今偶然にも同じ高校に通っていまして、偶然にも知り合いなんです」
本当に、奇跡みたいな話だ。
好きになったばかりの頃は、運命だなんてはしゃいでいたっけ。
「なにそれすごい!小説みたいな話だね!運命的!」
…こうやって聞いてると、美雪さんは少しあたしと思考が似ているのかもしれません。
「中川くん、披露宴にもいましたよ?サッカー部代表で。気づきませんでした?」
「え、嘘!そっちはたつに任せっきりだったからなぁ…で、何、ひかりちゃんは恭くんのことが好きなんだ?」
「…正確には好きだったけど忘れようとしていて、でもうまくいかないって言う感じです」
簡単に忘れられたら、どんなに楽だっただろうか。
こんなにモヤモヤして、事あるごとに思い出して、苦しくて仕方ないよ。
「あぁ、それで忘れられない人ね…なにか忘れなきゃいけない何かがあったの?」
真剣な顔になった美雪さん。
こんな小娘の話をちゃんと聞いてくれるなんて、優しい人だな。