89×127

「…弟?!って、えーっと、なんだっけ、きょ、」


「恭介くんです」


「そう、恭介くん!ちっちゃくて可愛かった恭くん!」


そうか、付き合っていたころに関わりがあったのか。

美雪さんの中の中川くんはきっと、あの日病室にいた幼いままの姿なんだろう。



「なんで、ひかりちゃんが知ってるの?病院であったとか?」


「いえ、今偶然にも同じ高校に通っていまして、偶然にも知り合いなんです」



本当に、奇跡みたいな話だ。

好きになったばかりの頃は、運命だなんてはしゃいでいたっけ。



「なにそれすごい!小説みたいな話だね!運命的!」


…こうやって聞いてると、美雪さんは少しあたしと思考が似ているのかもしれません。



「中川くん、披露宴にもいましたよ?サッカー部代表で。気づきませんでした?」


「え、嘘!そっちはたつに任せっきりだったからなぁ…で、何、ひかりちゃんは恭くんのことが好きなんだ?」


「…正確には好きだったけど忘れようとしていて、でもうまくいかないって言う感じです」



簡単に忘れられたら、どんなに楽だっただろうか。

こんなにモヤモヤして、事あるごとに思い出して、苦しくて仕方ないよ。


「あぁ、それで忘れられない人ね…なにか忘れなきゃいけない何かがあったの?」



真剣な顔になった美雪さん。
こんな小娘の話をちゃんと聞いてくれるなんて、優しい人だな。



< 200 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop