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「で、どうだった?ちゃんと聞いた?」
席に座って落ち着いたと思ったら美雪さんが少し前のめりになる勢いで聞いてきた。
もうこの人恋バナ好きな女子高生みたいなんだけど。
あたしのイメージする30歳ってもっと落ち着いてるはずなんだけどなぁ。
「あ、たつがいたら話しにくいか。たつ、ちょっとどっか行ってて」
なかなか話し出さないあたしに、松下たつのりがいるせいだと思ってしまったらしく辛辣な一撃を食らわせる美雪さん。
「えぇー…」と情けない声を出す松下たつのりに思わず笑ってしまった。
この数分のやり取りだけで、二人の日常の上下関係が見えてしまった気がする。
もちろん、美雪さんが完全優勢だ。
「別に、松下たつのりはもう知ってるので、いても問題ないですよ」
「え?!たつ、もう知ってるの?!というか、なんで担任のあんたが生徒の恋愛事情把握してるの?」
「それはオレと真鍋の信頼関係があるからだろ」
「で、ひかりちゃん、どうだったの?」
美雪さんの横で「安定のスルー!」とか嘆いている松下たつのりは視界に入れないよう心がけよう。
「結果的に、彼女はいませんでした。あたしの勘違いだったんです」
「あら!あらあら!じゃあこれで心置きなく恭くんにアタックできるね!」
「あ、それがですね…」
「あれ?お前中川のこと知ってんの?」
もう付き合い始めましたと報告しようとしたら松下たつのりに遮られてしまった。