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『みんな!青春しようぞ!』
「ぶふッ!」
耳に響いてきたもう何度聞いたかわからない声とセリフ、そして吹き出すような笑い声に机に思いっきり突っ伏したあたし。
勢いがつきすぎてゴンッと鈍い音があたしの額と机によって奏でられたが、目の前の人物にはそんなこと関係ない。
こみ上げる笑いを隠そうともせず目の前で肩を揺らしているのは言わずもがな、亀井渚様であります。
『みんな!青春しようぞ!』
「ぶはっ!!」
「もう!渚!いい加減それダメ!消去消去!」
「はぁ?消すわけないじゃん!こんな面白いのに!」
「面白くない!なにも面白くないよそんなの!あたしが真面目にしゃべってるだけじゃん!」
「あたしあんたの真顔ってツボなんだってば。それになに『しようぞ』って?武士?武士にキャラ変なの?」
「ううううるさい!何言ったらいいかわかんなすぎてパニックだったんだよう!」
そう、今渚がiPhoneの画面に映しているのは、あの文化祭前日に無茶振りされたあたしのあいさつである。
なんか渚がやけにニヤニヤしてんなーって思ったら、動画を撮られていたよ。
普通に写真だと信じて疑っていなかったあたしは、とにかく何か言わなければという使命感にかられ、いやに真面目な顔であんなことを言ってしまった。
『みんな!青春しようぞ!』
そう、こんな感じに。
「なーぎーさー!!もうそれ嫌ぁー!!」
文化祭が終わって早いもので三日経った。
何が面白いのか、その時の動画をこうやって何度も繰り返し再生しては愉快そうに笑う渚に頭を抱えたくなる。
文化祭の最中も何度も再生されていたとはクラスメイトと渚の彼氏の証言だ。
まぁ、みんなも一緒になって笑っていたみたいですがね。
『みんな!青春しようぞ!』
「渚のばかーー!!」