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「真鍋先輩!」
渚の精神的な攻撃にHPを削られ続けること数十分。
「お待たせしました!」
あたしの力の源、そしてこの女王様からあたしを救い出してくれる救世主様が教室に現れた。
「中川くんー!助けて!渚が、女王様がー!!」
『みんな!青春しようぞ!』
「うわあぁ!!」
中川くんに助けを求めると、またもや渚のiPhoneがそう叫んだ。
心なしか先程より音量が大きくなっている。
ひどいよ渚さん!
「…亀井先輩、まーたそんなことやってるんですか?」
「だって面白いんだもん」
今日は放課後にちょっと中川くんと一緒に行きたいところがあって、こうやって中川くんの部活が終わるのを教室で勉強しながら待っていたのだ。
「それならあたしも」と言って勉強に付き合ってくれた渚さんだったが、結局HPを削られて終わってしまった。
あの動画、いつか絶対に削除してやる。
怒られる覚悟はできている。
「あんまりいじめないであげてくださいよ」
「大丈夫。これが普通だから」
「普通じゃないよ!普通の友だち関係ってもっとほっこりするものだと思うんだあたし!」
「そういう普通じゃなくて、あたしとあんたの『普通』はこれでしょ?何?それともあたしとほっこりした関係になりたいわけ?」
「……渚がほっこりとか、恐怖で落ち着かないわ」
「でしょ?」
「でもその動画は消してほしい!後世に残さないで!」
「嫌だよ。せっかく面白いんだから」
「亀井先輩…」
「ふふ ほらほら、そんなに嫉妬しないのー。これからデートなんでしょ?仲良く青春してきなよ」
「なっ……!い、言われなくても青春するし!中川くん行こ!青春しようぞ!!」
半ばやけになってそう叫ぶと、二か所から「ぶふっ!」という噴出音が聞こえた。
…渚はもうあきらめよう。
「中川くんまで笑ったー…」
「ふは すみません、つい。先輩、早く青春しに行きましょう?」