89×127

それまでずっと口を閉ざしていた中川君。

あたしの問いに顔をうつむかせ、小さく首を横に振った。



「…小さい頃は兄に写真を撮ってもらうのが凄く楽しくて、嬉しくて、大好きでした。…でも今は、どうしても、兄のことを思い出してしまうので…」


「そっか…」



カメラを常に肌身離さず持ち歩いていたお兄さん。

カメラも写真もお兄さんの思い出につながるものだもんね。



「なんか悪いことしたね。」


あたしはカメラも写真も大好きだけど、中川君にとっては悲しみを呼ぶ材料にしかならないんだ。


「いや…あの、違うんです。

……俺は、シャッターの音を聞いたりカメラを見たりして兄のことを思い出すのに、その兄がどんな声だったかとか、どんな格好してて、どんな話し方で、どんな顔で笑って、どんなことをしたか、段々はっきりと思い出せなくなっている、俺自身に嫌気がさすんですよ。

あんなに大好きだったのに、段々、分からなくなるんです。」




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