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それまでずっと口を閉ざしていた中川君。
あたしの問いに顔をうつむかせ、小さく首を横に振った。
「…小さい頃は兄に写真を撮ってもらうのが凄く楽しくて、嬉しくて、大好きでした。…でも今は、どうしても、兄のことを思い出してしまうので…」
「そっか…」
カメラを常に肌身離さず持ち歩いていたお兄さん。
カメラも写真もお兄さんの思い出につながるものだもんね。
「なんか悪いことしたね。」
あたしはカメラも写真も大好きだけど、中川君にとっては悲しみを呼ぶ材料にしかならないんだ。
「いや…あの、違うんです。
……俺は、シャッターの音を聞いたりカメラを見たりして兄のことを思い出すのに、その兄がどんな声だったかとか、どんな格好してて、どんな話し方で、どんな顔で笑って、どんなことをしたか、段々はっきりと思い出せなくなっている、俺自身に嫌気がさすんですよ。
あんなに大好きだったのに、段々、分からなくなるんです。」