ハルク
電話の着信音が鳴る。
ディスプレイには、安美から登録しておけと言われた番号が出てる。

「電話きちゃったんで…」

チラッと、男の人を見て電話に出る。

「はい…」

電話の向こうに掠れたおじさんの声。その声はまず第一声、「わしだけど」と名乗った。

安美から相手の人の名を聞いていなかったから、名前はわからない。
でも、自分から聞く気にもなれなくて「…はい」と返事を返した。

『今、どこにいるん?もう店の裏側にいるんやけど』

エセ臭い関西弁が耳に障る。

「今…ですか」

目の前にいる男の人と目を合わす。男の人は首を振った。

「今は…、パチンコ店の横の駐輪場です」

『駐輪じょ…』

男の人が私からスマホを取りあげる。

「彼女は行きませんから!」

電話口に一言発すると、電話を切ってしまった。

「何すんの?」

怒って声をあげると男の人は、眉間に皴を寄せて私に向かってきた。私が一歩後ずさると、スマホを持っていない方で私の左手首を掴んだ。

「お願いだから僕の話を聞いて!」

「離して!」

手を振り払おうと、左手に力を込める。でも男の人の力にびくともしない。

「離して!」

自由になっている右手で、私の手を掴んでいる男の人の右手を掴んだ。

「止めてください!」

「君はそれでいいの!?」

掴まれている手の力が一層、強くなった。

「おーい、お前か?」

右手にガラケーを掴んだおっさんがこっちに歩いて来る。声は電話で聞いた時と同じ。掠れていた。
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