ハルク
お兄さんは黙って下を向いてしまった。

時々、通行人が横を通ったけど、私たちの空気を察してか横目で見ることもなく通りすぎた。

涙を堪えたらそれ以上は溢れてこなかった。体中の涙はすっと引いて、私はまた渇いてしまった。

「私はお金貰ってないから」

お兄さんは顔を上げた。
まだ、眉間に皴を寄せていた。

「友達が勝手に相手を探してきて。会ってこいって言われたの」

少し驚いた表情を見せてお兄さんは私を見る。

「この紙袋の中、なんだと思う?制服だよ。制服着てほしいから持って行けって。…気持ち悪い」

涙が込み上げてくる。溢れてくるのに、涙は一滴も落ちない。

「はは、なんだこれ。全然、涙が出ないやぁ…」

今までの私は、考えることを止めて、感じることを拒否してきた。だから私の体は、反応することを止めてしまったんだ。
ごめんね。もっと自分のことを大事にすればよかったね。私のことを大事にしてあげられるのは、私だけなのに、それをしなかったから罰が当たったんだね。

「無理して泣かなくてもいいんだよ…きっと……いつか泣けるようになるから…」

お兄さんがそう言って自分が泣いた。目を真っ赤にして。溢れる涙を何度も拭った。

きっと泣ける日が来る。

そうしたら、私はもっと自分のことを大切にしよう。
自分のためにいっぱいいっぱい泣こう。

私のために泣いてくれてありがとう。
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