ハルク
「どうして?」

私が問いの一言を発するとはるくは、はっきりとこう言った。

「安美ちゃんに会いに行こう」

ぐっと心臓を鷲掴みにされて息が止まるくらいの衝撃があった。

「安美に……?」

『名前…教えた…っけ…?』

口の中が乾いて、飲み込もうとした唾液が喉の入り口で阻まれる。
雑巾をきつくしぼったみたいに喉の奥までカラカラになった。

急な吐き気が内側から襲ってきて口を抑えた。

胃が拒否する。

これから呑み込もうとしていることを、何かを、止めろ。と私に訴える。

「どうしたの?百香ちゃん!?」

異変に気付いて私の肩に軽く手を置いた。その温度が暖かくて全身が震える。

息を大きく吸った。
大きく吐いた。

きっと私の体が拒否していることは、きっと私がやりたいことなんだ。
何も決められない私に、何にもNOと言えない私の代わりに、意思表示を示してくれている。

にこっと口元に笑みを作って私は『笑った』。

大丈夫、という意味。
私はやれるよ、という決意表明。

はるくに。私自身に。
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