ハルク
「あの時は信じてもらえなかったけど本当なんだ。時々だけど僕には人の心が聞こえる」

それだけ言って私の目の奥を見た。
吸い込まれそうな瞳。茶色の瞳に支配される。
それを見ただけではるくの心を見れた気がした。

でも、私には大きい。

受け止めるには私の入れ物は脆くて小さい。
泣きたかった。

はるくはそんな私の気持ちをわかっているように…私に何も言わなくて…私が何も言えなくても…そのまま私を見た。

「安美ちゃんには…会いたくない?」

私の顔を探るように覗き込む。その質問に答えることは難しくて私はじっと考えた。

頭の中をぐるぐると色々な思いが駆け巡った。泣きそうになって、不安が襲ってきて私の頭の中だけ時間が滞空している。

はるくの顔が曇った。きっと私の顔が曇っていたせい。

「あの…ね」

やっと絞り出した言葉の端。後にこう続けた。

「出来たら…ね。会いたくない…………でも、」

「でも?」と聞き返すはるくの声が聞こえた気がした。それは私自身が自分に問い掛けた言葉だったのかもしれない。

「会わないといけない…と思う……」

切れ切れの言葉。
私に力をください。

私は……私を救いたい。

そして………

安美のことも救いたいんだ。
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