ハルク
自転車地獄を抜けるまで残り1メートルの地点で後ろから「あたっ、いたっ」と言う男の人の声がした。その後に自転車が倒れる音が響く。

音にびっくりして振り向くと、大学生くらいの男の人が自転車に足を取られて、転けそうになっていた。

バランスを崩した自転車が隣の自転車にぶつかり、ドミノ式に倒れそうになっているのを男の人は必死で止めていた。

「だいじょぶですか!?」

自分が自転車を倒さないように慎重に戻って、傾いた自転車たちを元に戻してあげる。

「す、すみません」

慌てて道路に落ちた帽子を拾おうとしてまた、自転車に突っかかりそうだったので、代わりに拾ってあげた。

「ありがとう」

「いいえ」

ニコッと笑い、最後に良いことが出来たことの満足感に揺られながら、また道を戻った。

「待って!!」

男の人は両手で私が拾ってあげたキャップを掴んでいる。私が顔を見ると、口を開いた。

「あの……気を悪くしたらごめんなさい」

そしてこう続く。

「君、今から知らない男の人に会いにいこうとしてない?」
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