いつまでの忘れず大好きです~日記につづった「千帆」~

*記憶


(暑い。)

地球温暖化が進んだ今の時代は、真夏の猛暑が続いていた。ジメジメした空気と、照りつける太陽は私をあざ笑うかのように光っていた。

さっき、何も持たずに家を出た。もう私なんてあの家にはいらないの。そして…この世の中にも…。

「死にたい」

この文字が頭の中をグルグル回っていた。私なんて死んでも悲しまれないよ。お母さんもお父さんも先生も元彼氏も…友達も。
ううん、私には友達なんていないのか…いじめが始まるとすぐに裏切るような人たちだもんね。友達なんかじゃないよ。
(どうして…。)
疑問が残る。そして、私はどこへ向かっているかもわからずに歩き出した。

東京のビルが立ち並ぶ中に小さな公園があった。歩き疲れた私は誰もいない静かな公園のベンチに腰掛けた。
(今日のうちに…どこかで…)
私は今日、「死」を決意した。だって、生きててもいいことないの…ただ誰にも同情も、助けもなしにただ一人で生きて行くだけ。
そんな人生、ないほうがいいじゃない。誰も必要としてないんだからさ…。
私は心の中でそんなような言葉をずっと、言っていた。

夕方ー。
(あれ…なんか、体が…変…。)
日向にずっと座っていたせいか、頭がクラクラする。
(頭痛い…)
めまいがして、もう一回座り込んだ。
(熱中症かな…?)
意識がもうろうとしてきた。
(あれ…)
次の瞬間…私の意識は途切れた。

「…ぅ……。」
目を開けるとそこには、真っ白な天井があった。
「え……?」
起き上がって、周りを見渡してみるとどうやらここは病院のようだ。
(私…どうして…?)
「目、覚めたかしら?」
少し高めで優しい女の人の声がした。おそらく看護師さんだろう。
「え……あ、はい…。」
状況が読めずに曖昧に返事をすると、看護師さんは微笑んで私に言った。
「昨日、救急車で運ばれてきたのよ。熱中症かな?」
あまりにも美人な看護師さんに見とれていると、ベットの中を覗き込んで言った。
「私は、藤咲って言います。あなたの名前と学校は?」
優しい笑みで私に問いかけた。
「…あ……。」
自分でも何を言おうとしたのか分からなかった。でも……
(私…どこから来たんだっけ…?あれ…学校は?)
「生徒手帳も持ってなかったの。教えてもらえるかな?」
目を泳がせている私を見て、藤咲さんは心配そうに顔を覗き込んだ。
「………私…誰、なんですか…?」
「え…?」
私がやっというと、藤咲さんは目を丸くした。
「わ…わからないんです…私、誰なんでしょうか…?」
私は自分でも気づかないうちに、泣いていた。
「わか、らないの?自分がどこから来たか。」
藤咲さんは、最初は戸惑っていたものの、真剣な表情で私に言った。
「…分からないんです…どうして、ここにいるのかも…。」
声を震わせて言うと、藤咲さんは何も言わずに私を抱きしめてくれた。

次の日、私は精密検査をした。
どうやら、体に異常はないものの精神的なショックかなにかで昨日までの記憶をすべて無くしてしまったみたい。
何も覚えていない私は、とりあえず入院することになった。

でも、これが何も思い出せない私の地獄の日々の始まりー。

そして、彼との出会いのきっかけだったー。



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