ヴァイオレンス・フィジカリズム
「残業は嫌いだって言ってるじゃないか。給料以上の事はしないんだ。」
「何いってやがる、時給労働者が。働いたら働いただけ金入るだろ、」
「時給分だけなんて割に合わない。」

僕の収入の殆んどは、客をとってバックされる指名料だ。
時給だけだったらコンビニでバイトするのと殆んど変わらない。客もとらないでIDカード上の労働時間を引き延ばすのは儲けも少ないし、まるで売れない情けないドールの様で、僕は嫌だった。

だから僕は何時も仕事が終わったら即帰る。

やることはやっていたし、指名だって多かったし。
客商売の癖にそんな態度の僕を中には悪く言うスタッフもいたが、頂点に臨する葛城が笑って許していたから、結局僕がこの仕事を辞めさせられる事は無かった。

「……で、珍しくこんな時間に顔出して、何の用だよ、姫島。」

葛城が発したのは僕の名前の筈なのに、なんだかそれは酷く奇妙に響いた。

「……本名で呼ぶの、止めてよ。変な感じする。」
「手前ェの名前だろ。」
「此処では友姫が僕の名前だから」

姫島友樹(ひめじまともき)。

そんなありふれたつまらない名前が、僕の本名だった。
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