慟哭

私は、亡き恋人の名前を挙げた


若者の顔色がさっと変わった


「僕が昔、世話になった方です」

声が震えていた


「私、あの人の恋人です
今日は命日ですから、
お墓参りに来たんですよ」


すると、若者は帽子をパッと取り、バッグを肩に掛けたまま身体を折り、深々と頭を下げた


「ウッス!
自分、線香上げさせてもらいました!
今でもメチャクチャ尊敬してます!」


その時、バスが来た


ピーと音を立てて、バスの扉が開く



わざわざ遠いところ、ありがとう…
彼、すごく喜んでますよ



バスの窓から、小さく手を振る若者



20歳そこそこだろうか


私の愛する人が肉体を失った時、
あの子は子供だった

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