女の子は充血している
光羽虫

あいされていた。

あいしてもいた。

だけどそれは全部

気のせいだったかも知れない。


ただかっこいいとか

話がおもしろいとか

誠実な人だとか

それが一体、

なんだというんだろう。


私たちは

あまりにも仲がよくて

自分たちの手にも負えないくらい

お互い夢中になっていた。


私たちはこのまま

同化してしまうんじゃないかって

恐れおののくくらい

形がないほど抱き合って

片時も離れられなくなっていた。


気の弱い小さな虫のように

私はあなたの皮膚によじのぼり

体中にあいている穴すべてに

懸命に卵を産みつけていた。


気の弱い小さな動物のように

あなたはいつしかそれに気づき

私の卵を振り払いながら

懸命に自分を保とうとした。


私たちは一匹ずつ

別々の巣穴に

帰らなくてはいけなくなった。


指先をつないで歩いたこと

ビーズの指輪をくれたこと

内緒の話をうちあけたこと

夜中、走ってきてくれたこと


体のどの部分にそれらを

しまいこんでおけば苦しまない?

記憶のどの部分にそれらを

なくさずにおける箱はあるの?


私の鳴き声が

あなたに届いた日

世界はあまりにまぶしくて

うまれたてのようだった


粉ごなになった羽に映る

光はあの日と同じようにきれいで

私はあなたの腕をつかんだ

力をゆっくりゆるめていった


罠はどこにもない

うしなったものさえ


どんな時でもあなたはいつも

私にとってやさしかった
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