キスから魔法がとけるまで


確かに梨花の言う事も一理ある。だけど人目を気にしてたって仕方がない。男性に見られていようが、私にはどうでもいい視線だ。

ツルツルとハイスピードで、私の口内に消えていくスパゲティを見つめている梨花が、ふいに切り出した。


「ね、原田さん、何て言うと思う?」

「ゲホ……!!な、何?」

いきなりダイレクトに、旬な名前を出すな!

思わずむせてお冷やに手を伸ばすと、一気に喉に流し込んだ。梨花は意味深げにニヤリと笑うと、楽しげに身を乗り出す。


「パパ部下の原田さん。実はバーに誘ってあるんだよね。まどかの新境地デビュー祝いに、洒落たとこ予約したからさ」

「いやいや、飲みに行けるのは嬉しいけど、何で原田さん?!」

「あんた、全然わかってないでしょ。それだけ可愛くなったんなら、異性に見て貰いたいとか、感情沸き上がるのが普通でしょ?」

「とか言って、本当は梨花が会いたいだけなんじゃないの?苦手なんだよね、私。ああいうタイプ。甘いマスクとか甘いボイスとか甘い系……」

「甘いのだって、食べてれば慣れてくるでしょ?会ってれば好きになるかもじゃん」

馴れるって、彼を食い物と一緒にするな!
あれの甘さは別格だ。

ルンルンと、出てきたデザートを口にする梨花を横目に、私はサラダをちまちまと口に詰めた。





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