キスから魔法がとけるまで


「驚いたなぁ、本当にまどかちゃん?」

梨花が予約をとっていたバーに、少し遅れて到着した原田さんは、私に視線を合わせたまま前の席に腰を下ろした。


「あ、はい、まあ……。そんなリアクションになりますよね」

もはや、苦笑しか出てこない。

女に不自由しないであろう人物に披露したところで、何の得があるのだろう。
仮に、綺麗だと言われたとしても、彼には挨拶やマナーと同じ事。そんな言葉を投げられたところで、私に何と返せと言うのだろうか。
いや、寧ろ教えて頂きたい!
何と返せば正解なのか!

「あ、原田さんも、何だか雰囲気いつもと違いますね?イメチェンですか?」

梨花の言う通り、確かに何だか違う。
落ち着いたスーツに、らしくない眼鏡。フォーマルにまとめられた姿は、まるでサラリーマンだ。

「ああ、僕らしくないかな。実はちょっとした調査中でね。これじゃないとマズイんだよ」

「そうなんですか。私は今日の原田さんも素敵だと思います!ね、まどかもそう思うでしょ?」

「まあ。ダテでも眼鏡は親密わきますね」


手元に揃ったドリンクを合図に、妙な感じで乾杯を交わした。



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