キスから魔法がとけるまで


……どれくらいたったのだろう。

話を弾ませる二人を尻目に、ぐびぐびと飲み続ける私。

不思議だなぁ、この格好だと酔えないのかな。しかも慣れないコンタクトが、気になってしかたがない。
このままだと帰して貰えなそうだし、そっとトイレで着替えて出ればいいか。
なんといっても刑事が一緒なら、梨花の帰りも心配ないし。

私は、トイレにたつ振りをして、そっとお会計を済ませ、お手洗いに駆け込むと、ジーパンと眼鏡を装備した。

「ああ~これこれ、やっぱ落ち着く」

こんな格好なら、間違いなく出入り禁止をくらうだろう。
私は、不審なまでに警戒するとお手洗い横の通路に出た。

ひゃ、びっくりした。こんな所に座りこんでつぶれてる人がいる。

なんて、邪魔な。


「あの、すみません!ここでつぶれたらマズイですよ~」

そっと肩に手をかけ揺さぶると、何度目かの呼び掛けに彼は目を覚ました。

「あの、ここで寝られると邪魔なんですけど」

「邪魔、だと?」

「ええ、通路なんで」

「この俺をなんだと……よし、来い!」

そう言うなり、突然彼は私の肩を抱えると、強引に歩きだした。

「ち、ちょっと!」

私の抵抗にもこたえず、彼は見た事もないVIPルームに、づかづかと足を踏み入れる。

中は盛り上がっていて、酔った彼が私を引きずる様に連れて来ると、彼等はこちらを見るなりあんぐりと口をあけた。

「よーし、盛り上がってるな!」

「やっと戻って来たか、って。誰だよ、その汚ない女」

「これはだなぁ、俺の女だ!俺には女がいないと言っていたよな?一泡吹かせてやるからな、見ておけ」


それは、彼等が息を呑むのとほぼ同時だった。


突然顔が近づいてきて、私の顔を塞いだ。唇に触れる柔らかな感触。
そして、開いたままの瞳に飛び込んできた、彼の閉じた長い睫毛。

こ、これは……

き、き、キスーーー!!



< 13 / 34 >

この作品をシェア

pagetop