キスから魔法がとけるまで
……どれくらいたったのだろう。
話を弾ませる二人を尻目に、ぐびぐびと飲み続ける私。
不思議だなぁ、この格好だと酔えないのかな。しかも慣れないコンタクトが、気になってしかたがない。
このままだと帰して貰えなそうだし、そっとトイレで着替えて出ればいいか。
なんといっても刑事が一緒なら、梨花の帰りも心配ないし。
私は、トイレにたつ振りをして、そっとお会計を済ませ、お手洗いに駆け込むと、ジーパンと眼鏡を装備した。
「ああ~これこれ、やっぱ落ち着く」
こんな格好なら、間違いなく出入り禁止をくらうだろう。
私は、不審なまでに警戒するとお手洗い横の通路に出た。
ひゃ、びっくりした。こんな所に座りこんでつぶれてる人がいる。
なんて、邪魔な。
「あの、すみません!ここでつぶれたらマズイですよ~」
そっと肩に手をかけ揺さぶると、何度目かの呼び掛けに彼は目を覚ました。
「あの、ここで寝られると邪魔なんですけど」
「邪魔、だと?」
「ええ、通路なんで」
「この俺をなんだと……よし、来い!」
そう言うなり、突然彼は私の肩を抱えると、強引に歩きだした。
「ち、ちょっと!」
私の抵抗にもこたえず、彼は見た事もないVIPルームに、づかづかと足を踏み入れる。
中は盛り上がっていて、酔った彼が私を引きずる様に連れて来ると、彼等はこちらを見るなりあんぐりと口をあけた。
「よーし、盛り上がってるな!」
「やっと戻って来たか、って。誰だよ、その汚ない女」
「これはだなぁ、俺の女だ!俺には女がいないと言っていたよな?一泡吹かせてやるからな、見ておけ」
それは、彼等が息を呑むのとほぼ同時だった。
突然顔が近づいてきて、私の顔を塞いだ。唇に触れる柔らかな感触。
そして、開いたままの瞳に飛び込んできた、彼の閉じた長い睫毛。
こ、これは……
き、き、キスーーー!!