キスから魔法がとけるまで
ああ~すげぇ頭痛。
「悪い、冷えた水を頼む」
黒皮のソファになだれる様に腰掛けると、副社長の毒島京介(ブスジマキョウスケ)が、そっと薬を差し出した。
「飲みすぎだ。聞いたぞ、昨日の宴会騒ぎ」
「何だよ、お前まで俺に説教か。なら後にしてくれ、今は誰の声も頭に入らねぇ」
「確かに、たまには息抜きしろと言ったのは俺だが、お前が一番に酔い潰れてどうする?しかもお前、何をしでかしたかわかっていないんだろ?社内中騒いでるぞ」
しでかしただ?
ごくりと薬を流し込むと、凄まじい形相で腕を組む毒島と視線が合い、俺は思わず濡れたタオルを目頭にあてながら適当に返事を返した。
「何だよ、勿体ぶらずに早く言え……」
「お前の悪い酒癖だよ。どっかのわからん女にキスをしたらしい。しかもお前の……ここ」
「あ?」
指摘された唇は、口角が少し切れて赤く腫れている。何だこれ、頭痛のせいで全く痛みを感じなかった。
「殴られたんだよ、その子に」
「ああ!?」
「いいか、秋。お前はこの大企業の社長なんだ。この事がマスコミに知られでもしたら、今までの苦労が水の泡だ。ただでさえ変な記事が出回って」
「裏金がってやつだろ?」
「ああ。わかっているなら、今は静かにしていてれ。まぁ、確かにここのとこ多忙過ぎたからな。この際暫くゆっくりするといい」
「ああ、そうする」
「あ、それと。問題のキス写メが俺のとこに届いていた。後でお前に送るから、それらしい女が来たら、連絡してくれよ?」
「ああ、悪いな」
まるで自宅謹慎だな。
毒島が出ていった事を確認すると、俺は靴を脱ぎ捨てソファに横になった。