キスから魔法がとけるまで


「突然外出なんて、そんな状態で大丈夫なのか?自宅に帰るって訳じゃないんだろ?俺だって忙しいんだ。運転くらい誰でもやれる」

運転席からミラー越しにチラリと俺の様子を伺う毒島は、眉間にシワを残したまま視線を前に戻した。

「ああ、確かにそうだよな。でも今から行く場所は内密でな。毒島以外の人間には知られたくない」

「お前、まさか昨夜の女と……」

「は?ある訳ないだろ。殴った事を詫びると言うならまだしも。記憶が無いとはいえ、キスをした事は…事実のようだし、謝罪しろと問い詰められるのが有力だ。大体!そういう女は金目当てのろくでもない奴に決まってる!それにだ、俺はその女の素性を一切知らない!」

「わかったよ、わかったからそう興奮するな。でも、お前が知らなくても、向こうはそうとは限らない。それらしい女から連絡がきたらすぐに知らせてくれ」

「ああ、わかってるよ」


頭はきれるし神経質で用心深い。
確かに、そんな毒島だからこそ、この会社の舵を任せられている。

俺にはないモノを、この男は持っている。

そう確信して、この企業を立ち上げた頃、ライバル企業から引き抜いた。今、その企業はどうなっているのか、社名すら覚えていない。


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