キスから魔法がとけるまで
「そ、そんな、頭をおあげください!私ら下請け子会社に、社長自ら出向く程の重要な要件とは、まさか悪い話では……」
うちの下請けを担う、宮田製鋼は特殊な製法で様々な部品を制作している子会社で、
その独自の製法に惚れこんだ俺は、直ぐ様契約を取り付けた。
宮田の社員は、地味だが出来る奴が沢山いるからな。
うちの社員の三割は宮田の派遣社員だ。
そんな宮田社長が、あたふたとハンカチを額に何度も押し当てる。
「いや、御社には迷惑はかけない、約束する。だから折り入って頼みがある」
「頼みですと?それは一体どの様な……」
「俺を、雇ってくれないか?」
「!?……あの~何を仰っているのか皆目検討が」
「そのままの意味だ」
額に汗を滲ませ、あんぐりと口をあけた宮田社長に、俺は再度頭を深く下げる。
「金はいらない、ただ一社員として雇って頂きたい。どうか……頼む」