キスから魔法がとけるまで
コンコン!
ふと、絶妙なタイミングでノックがして、またしても絶妙なタイミングで、あの人の声がした。
「まどかちゃん、ちょっといいかな?」
今日も来ていたのか。
私はうなだれながら、やんわりと返事をすると、察知した様に騒ぎ出す梨花を無視して、通話を切った。
自室にこもると、ジャージ姿に、瓶底眼鏡の日常スタイル。
此処は、言わば私のプライベートスペースだ。よって、今までかつてこの部屋に誰一人として、侵入を許した事が無いのだ。たとえ両親でも。
ほんの少しだけドアを開け、隙間から外を伺うと、それに気付いた原田さんと視線が合った。
「はい、何でしょう?」
「もし違ってたらごめんね?まどかちゃん、今日の14時くらいに富士宮公園にいなかった?」
「……居ましたけど、なんでそんな事を?」
「やっぱり。いやね、今の現場(潜入捜査先)が、近くの企業なんだよ。たまたま見掛けたって言うか……誰かと話してたよね?」
見られてたんだ!
一体何処から!?もしや一部始終を!?
「いや~その~……」
「あの相手って、もしかして宮……」
「ああ!!し、知らない人ですよ!?喫煙所を教えてあげただけですから!」
「そう……本当に?」
「うん、うん、本当!本当!」
昨晩のキス事件……いや、キスには入らないけど、その相手があの男だなんて、知られたくない!
しかも、会ってたなんて誤解されでもしたら、両親の耳に入るのも時間の問題だろう。
それに、ほら、この男は口が軽そうだし、何がなんでも此らを切るのが妥当だ。