キスから魔法がとけるまで
眼鏡を整えチラリと見やると、彼は納得していない面持ちで、こちらをずっと見ている。
し、視線が痛い。何か喋らなくては!
「まどかちゃ……」
「あー!明日のレポートまだだった!すみません、原田さん、力になれなくて。捜査頑張って下さいね」
この会話に終止符を打つ、うまい口実を見つけたと、安堵の息でドアを閉めようしたその時だった。
ガシ!っと、突然原田さんの大きな長い手が、ドアを押さえ開閉を阻止した。
え?
いつも穏やかな彼らしからぬその行動に、緊張が走り私の身体は一瞬硬直する。
「まどかちゃん、本当の事を言ってくれないかな?潜入捜査員だからかね、人の表情をとらえるのは得意なんだよ。君が嘘をついている事くらい、僕は簡単に見抜ける」
「……」
「まどかちゃん、とても大事な事なんだ。今後の君を左右するかもしれない」
「話す事なんて、何もありません……」
「まどかちゃん、僕は……」
「知りませんってば!……もう、いいですか?私、疲れてるんで……」
「……そっか……ごめんね」
彼が手を離した事を確認すると、小さく頭を下げ、静かにドアを閉める。
下に降りていく力ない足音が、ドアの向こうから聞こえ、私は思わずドアの前でへたりこんだ。
何キレてるんだ、私。
原田さんは全く悪くないのに。
御礼を言うどころか、むしろ険悪な事態になってしまった。
あの男といい、今日は本当に最悪な一日だ。