キスから魔法がとけるまで

既に馴れない異物を眼球に貼り付けているせいもあってか、私の心中は増して穏やかではない。

心なしか、瞬きの回数も増えた様な気がする。

そんな私がさぞ滑稽に見えたのだろう。スタッフさんは私の髪を弄りながら、鏡越しにくすりと笑った。

「もっと力抜いて大丈夫ですよ」

「ハルさんはここの店長だし、超一流だから。あんたはただ座ってるだけでイイのよ」


これでも読んでたら?と、梨花は雑誌を数冊鏡の前に用意した。
ファッションやら生活やら料理本が多く、どれも私が読まないジャンルばかりだ。

全く、何処まで洗脳させる気なんだか……。

ふと、一冊の週刊誌が目にとまり、私は何気無くそれを手に取った。

父の仕事柄からか、こう言ったものには気にはなる。そりゃあ、ここに書かれた記事が全てではないだろうが。今、手元にある事が救いに思えた。


『スクープ!real U nationに裏金の存在!?元社員が激白。あの大会社の影とは』

real U nation(リアルユーネーション)とは、windowsやアップルに並ぶ日本が誇る大企業で、社長の宮城秋(ミヤシロアキ)が大学卒業してすぐに立ち上げ、下積みや実績を次々にあげ、今の大企業までにのしあがった。




< 8 / 34 >

この作品をシェア

pagetop