INそしてOUT
深みにはまる話
先に待ち合わせ場所に着いていたのは、男と姉だった。
男は身体ごと窓の方を向き険しい顔をして
流れる人混みをにらみつけ
姉は
その隣りにちょこんと座り
ただひたすら
テーブルを見つめていた。
僕はガラス越しにその様子を見て、慌てて待ち合わせの店に飛び込んだ。
「すいません」
遅れた事をわび
姉の前に座る。
頬をげっそりさせ、目の下にクマを作った不機嫌な男から目をそらしたくて
ゆっくりとダウンを脱ぎ
水を持ってきてくれた店員さんにコーヒーを注文する。
「はい」
僕は、運ばれてきた水のグラスを姉の前に置く。
姉は微笑み
頭を少し下げた。
いつもの
はにかんだような
優しい微笑み。
「見えるのか?」
男が低く荒い声を出したので、僕と姉はビクリと身を固まらせてしまう。
動きが似ている姉弟
よく言われたっけ。
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