INそしてOUT
「役に立つかどうかは、わかりませんが」
手のひらサイズの小さな本。
赤い表紙に金色の文字。
姉がこっそりと自費出版していた、世界でたった一つの本。大切な宝物。
「姉さんの部屋、警察が入り込んだから……ぐちゃぐちゃになってしまって」
上目遣いで姉を見ると、少しムッとしてる。
綺麗好きだったからね。
「今朝、母さんと片付けてたらこれをベッドの下から見つけて……ごめん。読んだ」
横を通った店員さんが、ブツブツ語る僕を不気味そうに見ている。
すいません
変な客で。
「読んでもらうから」
僕は姉にはっきり言い
何度も何度も朝から繰り返し読んでいた本を男に渡す。
男は乱暴にそれを奪い
読み始めた。