INそしてOUT

「役に立つかどうかは、わかりませんが」

手のひらサイズの小さな本。
赤い表紙に金色の文字。

姉がこっそりと自費出版していた、世界でたった一つの本。大切な宝物。

「姉さんの部屋、警察が入り込んだから……ぐちゃぐちゃになってしまって」

上目遣いで姉を見ると、少しムッとしてる。
綺麗好きだったからね。

「今朝、母さんと片付けてたらこれをベッドの下から見つけて……ごめん。読んだ」

横を通った店員さんが、ブツブツ語る僕を不気味そうに見ている。

すいません
変な客で。

「読んでもらうから」

僕は姉にはっきり言い
何度も何度も朝から繰り返し読んでいた本を男に渡す。

男は乱暴にそれを奪い
読み始めた。

< 5 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop