竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
まあ、実際たいしたことない女なんだけど……。
ため息をつく当事者のエリを横目に、月翔(ツキト)が続ける。
「急いてはことを仕損じるともいいますよ?」
「ボヤボヤしてたら、とんびに油揚げさらわれる」
「誰がとんびですって?」
「言わなきゃわかんないの? あんた、そーゆー人でしょ」
え、なにそれ。
ごくりとパンを飲みこみながら、不穏ににらみ合う花沙(カズサ)と月翔の顔を見比べるエリ。
「花沙」
弟の挑発に月翔が美しい眉をひそめる。
けれどそれさえ演技のような気がしてくるのは、月翔の並外れた美貌のせいだろう。
じゃれ合っているのか、ケンカしているのか、どうもこの二人はわからない……。
っていうか、一番上のお兄ちゃんが止めればいいのに!
エリは批難に満ちた目を雪光に向ける。が、彼はどうでもよさそうに、パンをちぎり、黙々と口に運んでいた。