竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
思わず持っていた紅茶のカップを置き、エリは立ち上っていた。
そんな彼女を冷ややかに見上げるのは、やはり月翔だ。
「じゃあいつだったらいいんです。いつ、あなたはやる気になるんです? 一応言っておきますけど、ここに住んでいる以上はだらだらアルバイト生活だなんて許しませんよ」
「うっ……」
月翔の厳しい言葉に、思わず肩をすくめる。
せめてフルタイムで働いていれば、暇じゃないと突っぱねられるのだが……。残念ながらエリは依然アルバイトで時間には余裕があった。
月翔の言うことを否定できない……。
痛いところを突かれて口ごもる。
「だけど、店は……」
「――」
「だって、その、あの人の、お店なんでしょう……もとは……」
鋭い雪光の視線に、オドオドしつつも抵抗するエリ。
なんでこの人は、ただ黙ってるだけでこんなに怖いんだ……。
「そして今はエリの店だけどね」
花沙はそう言って、膝のうえで手を固く握りしめるエリを見つめる。