竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
「師匠に抵抗があるのは重々承知してるけどさ、そうやって逃げてても、なんにもなんないじゃん」
「逃げる……」
「一生、師匠から目を逸らして、なかったことにするつもり?」
「だって……」
今までそうやって生きてきたのだ。
だからそれ以外の方法をエリは知らない。
「そもそも、目を逸らしたって、なかったことにはできないからね。家にいる限りは、なおさら。俺たちは師匠の最後の弟子だし」
確かにそうかも。彼らはあの人の弟子で、あのお店が欲しくて、自分と一緒にいるんだから。
彼らと一緒にいるということは、あの人と向き合うことと同じなのかもしれない……。
今さらながら、母が出て行ったことの理由を考えてみると、確かに『父との思い出』をなぞるということも大事だったのだろうけれど、エリの自立を促したかったのではないかと、思えないこともない。
「とりあえず受け入れてみたら? 駄目だったらまた考えればいい」
花沙は大きな猫のような瞳を細めて、まるで大したことではないのだと言わんばかりに軽やかに言い放った。