竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち

そう、説明しようと口を開きかけたのだけれど


『エリィ』


またしても、あの声が、脳内に甦る。



『肩。脇の下、そしてそこからウエストへと続くラインが、体に添うように作られているのが、スーツだ。オーバーサイズのスーツなんて、みんなゴミだよ』



「――こちらです」



エリの手が、背中から前に肩が曲がっているように見えるほうを指差す。



「なぜだ」

「袖が前に曲がっています。人間の体にあうように、立体的に作られているからです」

「――」



男はフッと笑って、スーツをハンガーにかけ片手を腰にかける。



「最低限の知識はあるようだ」

「――おそれいります」



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