竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
Camelliaに戻ったエリは、店長に「売り場が大混雑だったので、あとで取りに行きます」と嘘の報告をした。
「あら、そう」
店長は特に気にした様子もない。エリは深呼吸を繰り返し、平静を装って仕事を始めた。
スーツの男にかかわると、ろくなことがない。
男が上等であればあるほどだ。
心臓はまだ早鐘のように鼓動している。
息が苦しい。
あいつがここに来たらどうしようとビクビクしていたエリだったが、Camelliaは吹き抜けで中が見えるようなディスプレイをしていないので、店内をちょこまかと動きながら、隠れる作戦に出た。
「なんだか今日はよく動くわねえ。感心、感心」
「えへへ……」
店長に褒められても複雑だ。
エリは曖昧に笑い、カウンターの中に隠れてガラス細工のオーナメントを磨く作業に没頭していたが、終業時間になると同時に作業をやめ「お疲れ様です」と挨拶をし、バックヤードへと小走りで向かう。