竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち

保安を出て、駅へと向かう途中もエリの頭の中は『逃げろ、逃げろ、逃げろ!』と、シグナルが鳴り響いていた。


平穏だった自分の人生に、なんだかおかしなことが起こっている。


だけどそんなの望んでない!


エリは唇をかみしめ、足早に駅へと向かっていたのだが――そうは問屋が卸さないらしい。


エリの数メートル先の駐車スペースに停車していた車のドアが開き、男が出てきた。



「あっ……!」



バッグをつかんだまま、立ち尽くすエリ。



なんで……!?



「あんたがエリィだったんだ?」



瞳の大きな、猫のような弟。確かカズサと呼ばれていた青年が、不敵な微笑みを浮かべてエリの前に立ちふさがる。



「騙されましたね」



そして続いて運転席から出てきたのは、西洋人形のような美青年。ツキト。カズサの兄。



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