竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
――――……
9時30分から17時50分までの勤務を終え、エリは棒のようになった足をひきずりながらバックヤードを歩いていた。
「あ、ヤッさんいたいた! いま帰り~?」
陽気に声を掛けてきたのは、和菓子コーナーのアルバイト。宮田直子。
彼女とは働く場所が違うが、入店前研修で隣の席になったことから親しくなった。人のよいふくふくした体型と笑顔をしていて、三度の飯より和菓子が好き。
年も近く、人見知りをしがちなエリでもすぐに仲良くなれた貴重な存在だ。
「ヤッさんはやめてって言ってるでしょ」
舎李樹衿子(やどりぎえりこ)それが私の名前。
ヤドリギだから「ヤッさん」だって。
普通「エリ」って呼ぶでしょう。普通。
エリはため息をつきながら、それでもふかしたてのおまんじゅうのような直子が嫌いに慣れず、苦笑する。
「帰りだけど、直子は?」
「あたしも今帰りなの。お茶して帰ろうよ。ちょっと面白い話があるから」
「面白い話……?」