竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
「あんたの店だよ」
と、面倒くさそうに言ったのはカズサだ。金色のドアノブをつかみ、ゆっくりと引いた。
「そう、私の店……はあ……はあ!?」
「大きな声を出さないでもらえます? 店の品位が落ちる」
硬直する背中をツキトに押され、中へと入ったエリは、ぽっかりと口を開けて中を見回した。
まず目の前に広がっているのは広いサロンだった。床は大理石で、二十畳ほどの広さの部屋の真ん中には、応接セットが鎮座している。
大きな白磁の花瓶には色とりどりの薔薇が飾られていて、かすかにいい匂いがした。
「ここはお客様をお迎えするサロンです。奥には生地が山と積まれてありますよ。さらにその隣が、技術室で――」
「はぁ……」
さっぱりわからない。
私の店ってどういうこと?
「とりあえずお茶を淹れますから待っていてください」
ツキトがそう言い、サロンの左のドアへと消えていく。