竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち

エリはどうにも毒舌で、エリに対し一番あたりが強いツキトが見えなくなったことで、このまま走って逃げだしたい気分になったが、入口にカズサが腕を組んで立っているのに気付き、仕方なくソファーの端にちんまりと腰を下ろした。



「あの……私の店って、どういうことですか……」

「その言葉の通りだ」



試験男はため息をつきつつ、エリの真向かいに腰を下ろす。

恐ろしく長い脚を組み、こめかみのあたりを指で押さえた。



「この店の所有権はあんたにある」

「――あの、待ってください。何かの間違いだと思います。だって私、普通の25歳で、そんなテーラーなんて、貰うような……」



言いかけて、口が重くなった。


まさか――

まさか。



心臓がドクドクと鼓動を早める。



「あの……」



振り絞った声はかすれていた。



< 63 / 120 >

この作品をシェア

pagetop