竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
「すっごいイケメン……?」
最近さざれ百貨店の近くの駅ビル内に出来た、菓匠・槙屋秋光の和カフェで、直子が興奮気味に話したのは、『ここ最近、すごいイケメンが店内をうろうろしている』ということだった。
「何それ~……」
エリは苦笑しながらあんみつを口に運ぶ。
「イケメンくらい、いるでしょうよ」
「ちっ、がーう! すっこいイケメンなのっ! もう、ちょっとカッコイイとかそんなノリじゃないの、なんかオーラが出てるの、とにかくすごいカッコイイの!」
「ふぅん……モデルさんか何かじゃない? 俳優とかさ」
「あー……かもしれない。素人じゃないと思う」
直子はウンウン、とうなずき、そしてお汁粉をぐいっと飲み干す。
「で、そんなイケメンが買い物してた。それが面白いこと?」
自分とは違う世界のひととはいえ、東京には目を見張るような美男子も、美女もたくさんいる。
そう、自分たちが勤める、あのさざれ百貨店の社長だって目を見張るような男前なのだから、そう面白いと言い切るのには疑問があった。
「ああ、違うのよ。買い物はしてないの」
「はい?」
「ウロウロしてるだけ」