竜家の優雅で憂鬱な婚約者たち
母が父を愛していたのは当然だろう。
愛していたから傷ついた。
そんな傷ついた母を見たエリだったから、自分のこともそうだけれど、余計に父に対する憎しみが大きくなったのだ。
「エリが生まれる前、一緒に世界中を周っていたの。今度は一人で彼との思い出をなぞることにする」
「――」
凛とした横顔に言葉が出ない。
本気だ。
彼女の妙に明るい笑顔から、エリはそれを感じ取り、もう母親を止めることは出来ないのだと言葉を失った。
「エリはもう25でしょ? 自分で自分の面倒くらいみられるわよね?」
そして桜子は、娘でも思わず見とれるような、美しい微笑みを浮かべ、硬直して石になっているエリの背後の三兄弟に頭を下げた。
「どうぞ衿子をよろしくお願いいたします」
「よろしくするかどうかは、彼女次第ですがね」
長男はうなずいて、ソファーから立ち上がるとがっちりと桜子と握手をした。
―――……