SHIMAUMA
「・・それじゃあ、私はここでバス待ちますので、」
「お、奇遇だね。僕もここからバス乗るんだ」
男は疲れきった顔で笑顔を見せてきた。
男は私から受け取った封筒を右脇に抱え、
寒そうに肩をすぼめている。
その横で私は、
なにを話せばいいのかわからず緊張していた。
男は口から白い息をふわふわ出して、
ガチガチ歯を震わせている。
「・・寒いですね。」
「うん、そうだね。」
男の愛想ない答え。
まるで会話を続けようとしない態度に、
もう二度と話しかけないと心の中で決めた。
午後8時40分を過ぎて、
暗闇のバス停を市営バスのライトが照らす。
私は中年男性に続いてバスに乗り込み、
運賃箱に240円入れて奥の席に座った。
「隣、いい?」
そう聞いてきたのは、
取引先の桐山さんだった。
私は渋々OKをだして、
桐山さんは隣に座った。
別に満席でもないのに、わざわざここを選ぶなんて
私はますますこの男が苦手になった。
そして、
バスは波川のバス停を出発した。