SHIMAUMA

時刻は9時6分、

バスは着々と私の家へと近づいている。


私は、さっきから気になっていたことを

男に聞いてみることにした。


「・・・あの、さっきから過去形でしたが、
 シマウマちゃんは亡くなったんですか?」


「あ、そうだよ。
 言い忘れていたね、ごめんごめん、
 つい先日死んでしまったよ、寿命だね・・」


「・・やっぱり、ペットが亡くなるってのも
 悲しいものですか?」


「そりゃそうさ、
 僕たちの初めての家族だったからね。
 とても、悲しかったよ」


「・・そうですか・・、
 最後は、看取れたんですか?」


「うん、僕が仕事から帰ってきたら
 妻がシマウマを手の上にのせて撫でていた。
 
 シマウマは目を閉じて、
 必死に呼吸をしていた。

 それを見て妻は泣いていたよ、
 早く楽になりなさいって。」


「・・可愛そうですね・・・」


「・・そうだね、可哀そうだった。
 最後の最後まで頑張っていたよ、
 
 体全体を使って呼吸をし続けた。
 
 しだいに体の揺れが小さくなり、

 そして、呼吸は止まった。」


男は前を向いたまま、話し続ける。


「いやぁ・・・泣いたね、
 その日は泣いて泣いて泣きまくった。
 悲しくてしょうがなくて、
 次の日も仕事が手につかなかったよ。
 たかがハムスターって思うだろ?
 それがグッとくるんだよ、
 だってあんな可愛い奴が死んじゃうんだからな」


泣きながらそう話す男に、

私は何も返せなかった。
 
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