Vampire's Moral
流血がトントンと刻んでいたのは、ニンジンだった。
そして流血自身は瞬きをする事も無く、赤い目から赤い涙を流していた。
その様子はまるで、怨念や想い故に、目から赤い血を流し続ける、日本の怪談話に出てくる市松人形のようで。
事情を知っている俺でも、その怖さに、その異常さに、一瞬だが怯んだ。
「流血っ!?」
だけど怯んでいる暇は無くて、俺は慌てて流血に声をかけた。
包丁を持ったままの流血が怪我をしないようにだけ注意して、肩を掴んで強く揺する。
しかし流血は反応する事は無く、流血の赤い涙は止まらない。
流血の目から流れた赤い涙が、ニンジンの置いてあるまな板に零れ落ちて、吸い込まれていった。
まな板に、赤い涙が広がる。
ニンジンに、赤い染みが付いた。
「流血ってば! しっかりしろ!!」
俺は流血に飲みすぎないように言われたトマトジュースを、迷う事無く冷蔵庫から取り出す。
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