Vampire's Moral
「何なのアレ、ただ見てるだけじゃん。いや、見学って言うくらいだし、見るのは良いんだろうけど」
俺はそう言って、江梨子に苦笑して見せる。
だけど現実には、俺の声が虚しく病室に響く。
「やっぱ体育は、実際に体動かすのが一番だね。アレじゃ体が鈍っちゃうだろ」
江梨子の反応は、無い。
当たり前っちゃ、当たり前なんだけど。
何だコレ。
ここ、笑うトコなんだけど。普段の江梨子なら笑ってくれるじゃん。
この話で江梨子が目覚めてくれるの、期待してたんだけど。
「……なぁ江梨子、何で何も言わないんだよ」
それは知ってる。
江梨子が交通事故に遭って、今も意識が戻らないから。
分かってるんだ。
「なぁ江梨子、目を覚ましてよ。俺」
病室のドアが開く音がした。
思わず、喉から出かけた“もうこのままじゃ嫌だよ”という言葉を、飲み込む。
開きかけた口だけを、虚しく静かに閉じた。
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