ラララ吉祥寺
「わたしが無理やり誘ったのは確かですけど。
彼はそれに応えてくれた。
あの夜はわたしの中では現実なんです。
でも……、あんな目で見られたら……、もうあそこには戻れない。
わたしは彼の傍にいるだけで幸せだった筈なのに、傍にいることさえ叶わなくなっちゃった……」
馬鹿ですよね、と涙を拭って芽衣さんが顔を上げた。
わたしはかける言葉が見つからなかった。
何を言っても空々しい慰めの言葉にしか聞こえないように思えてしまって。
だから疑問をぶつけてみた。
「芽衣さんが逃げても、彼は追ってくるんじゃないですか?」
「きっと追ってはきませんよ。
彼は半年後に海外転勤が決まっていて。
だから、今はその準備で忙しい筈です。
お嫁さん探しも含めてね」
妻帯者であることが海外転勤の条件なんです、と芽衣さんが遠い目をして言った。
「だから……、焦ったっていうのもあるんですよね……」
止め処なく頬を伝う涙。
彼女はその涙を確かめるように頬を押さえた。